インタビューVol.5 「障がい者の生み出す”価値”に対価を」弟に託す”パッケージデザイン”(「糀(こうじ)おやつと発酵調味料のお店 mère -メル-」松川菜南実さん)


2023.8.28

Vol.5
「糀(こうじ)おやつと発酵調味料のお店 mère -メル-」
松川菜南実さんを聴かせて!

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(写真:松川さんの塩麹)

 もしもあなたの家族の中に何らかの障がいを持つ人がいて、その家族が半年間働いた報酬として「おきゅうりょう」と書かれた袋の中に5,000円を持って帰ってくる姿を見たら、どんなことを思うだろうか。その光景を当たり前のものとして受け取るか。それとも「自分に何か出来ることはないか。」と自問するか。もしくは、何らかの行動を起こすか。

「糀おやつと発酵調味料のお店 mère -メル-」松川菜南実さんは普段はエンジニアとして働きながら糀(こうじ)おやつや発酵調味料などの製造販売を行っている。知的障がいを持つ弟がいる。彼女の活動はハンドメイド食品で自分の味を広げていきたいということに留まらない。

「障がいを持つ方が『労働量』に対してではなく、『労働で生み出した価値』に対する報酬をもらえる世の中」を作りたいという、大変意義のある目標を持って行われている。

(写真:松川さんの販売する糀甘酒)

 松川さんは元々手作りすることや料理が好きだった。味噌を一から作ってみたり、ジュースを一から作ってみたりしていた。

彼女の中で健康志向が強まった時期に「糀(こうじ)」作りを始めた。彼女の作る糀はスーパーで並んでいる物とは異なり、非加熱・無添加・生きた酵素の糀だ。

「糀は名前が知られているけれど、実際に食べたことのある人は少ないですよね。」実際は簡単で使いやすいのが糀。自身が製造する糀がキッカケとなり、糀の愛用者が増えてくれると嬉しい、と彼女は語る。

最近では様々なマルシェや販売イベントにも参加し、ファンも増えてきている。「先日、ある販売店でポップアップを開催しませんか、とお誘いもいただきました!」と嬉しそうに教えてくれた。

(写真:知的障害を持つ弟がデザインしたロゴマーク)

 彼女の商品のパッケージには印象的な赤い花の絵が描かれている。そのデザインは彼女の弟が担当したそうだ。弟は知的障がいを持っており、高校卒業後働いたり生活したりする場である事業所に所属している。

半年で5,000円の給料を持ち帰る彼の姿を見て松川さんはこう感じるそうだ。「金額の大小にかかわらず、そこで生活する空間を提供してくれる事業所の方々には感謝しかありません。ただ、彼らにしかない、彼らにしか出せない価値がきっとある。その価値に対して報酬を支払えるようになりたい。」

その思いからパッケージデザインを依頼し、家族間ではあるが報酬も支払った。今後は袋や箱のデザインも障がいを持つ方々に依頼したい。その後は自社ブランドのデザイン以外にも、障がい者の持つ「独自の価値」を必要とする人々と障がい者をマッチングできるような仕組みを生み出したい。これが彼女の目標だ。

(写真:イベント参加時の松川さん)

 彼女の目標が実現したら、それは革命的なことではないだろうか。そして、その「革命」を望んでいるのは障がい者やその家族に留まらず、社会全体であるとも感じる。大多数の人が障がいを持つ方との適切な接点の持ち方や、ましてや仕事の依頼の仕方を知らない。彼女の発想は社会が待ちわびていたもの、と言っても過言でない。

 「障がいのある弟の存在」が彼女の活動の基礎基盤となっている、と話を聴いていて強く感じた。唯一無二の個性・可能性・価値は、一人の優しいお姉ちゃんによりもっと社会に認められる日が必ず来るだろう。

まずは、彼女の作品を手に取り、食べてみるところから応援は始められる。彼女のこだわりの味を、私もぜひお取り寄せしたい。

 

(インタビュー・執筆:戸田のり実)

 

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